原木の伐採と搬出

 備長炭の生産過程の中で、最も肉体的重労働な作業が原木伐採と搬出作業なのだ。
また備長炭技術を習得する際、まず第一に教え込まれるのが伐採作業、いや伐採を行いながらの
原木育成作業なのだ。
最近マスコミでは備長炭の原木が伐採され続け、後10年ぐらいで和歌山の山林から無くなって
しまうのでは、というような将来を危ぶむ報道がされている。
しかし仮に木炭生産が自然形態を破壊してしまうような産業であれば、和歌山での備長炭の歴史
が1000年以上及ぶはずがない。
現在にまで和歌山に備長炭の原木となる「うばめがし」や「あらかし」が存在していると言うこ
とは、先人の炭焼き師たちが将来にまで備長炭産業が続けられるよう、優良な原木を大切に残し
ながら、利用できる範囲の成木だけを伐採し利用していたことになる。
こうした育林作業は択伐作業と呼ばれ、現在でも炭焼き師の間で備長炭生産技術の最も大切な一
つとして継承されている。

 現地で伐採された原木は、現在も昔ながらの人力中心とした方法がとられている。
硲を滑らせ集材したり、木ぞりを利用したり、遠くの場所であれば架線(つるべ)を使い搬出し
ている。
肉体に厳しいこうした作業は、高齢化した炭焼き師には耐え難いものがある。
窯での窯だし作業は続けられても、山での作業に限界をみてリタイヤしていく炭焼き師も少なく
ない。
しかし現在、若い生産者を中心に労働力の軽減と生産性の向上を図るため、ハイテク林業マシン
「リモコン集材架線」の導入が始められた。
これらの機械導入のおかげで、少人数での搬出作業が可能となり、また今まで搬出不可能だった
遠方距離からの原木確保が可能となってきた。
将来は肉体的にも衰えてきた生産者にも安心して備長炭生産を続けてもらうため、作業の分担化
の必要性が叫ばれており、森林組合へのこうした作業への参入が期待されている。